株式会社アサヒは、1952年の創業で、制御盤の設計・製造と並行して医療機器の設計・製造の受託も行い、制御盤と医療機器の2本柱で事業を行ってきました。医療機器産業に特化した品質マネジメントシステムに関する国際規格のISO13485を取得済みで、長年にわたって大手電機メーカーが求めるスピード感と医療機器の厳しい品質要求をクリアしてきた技術力、設計から製造まで行える一貫生産体制を強みとしています。近年は若手の力と意見を積極的に採用し、若手をベテランが支え、社員が効率的に働ける環境、未来に向けた会社づくりに力を注いでいます。
ベテラン依存と競争激化に危機感を感じて変革をスタート
制御盤の設計・製造を担当するカトリ製造部では、組立・配線作業はベテラン社員が担っていました。しかし産業機器や医療機器を製造している当社の函館製造部や他社工場を見学した際、男女問わず多くのパートさんも製造を行っている現場を目の当たりにし、今後さらに制御盤メーカーの競争が激しくなった時、ベテラン依存の生産体制ではいけないという危機感を抱きました。同じ思いを抱いていた各部門の責任者と話し、設計部門からは「それまで使っていた汎用CADではなく、電気設計専用CADの導入」、製造部門からは「電線の自動加工機の導入」を求める声が上がりました。以前から興味を持っていたECAD DCXとWIRE CAM DXを使った設計・製造連携が思い浮かび、経営陣を数回に渡り説得し導入に至りました。
WIRE CAM DX専門チームを立ち上げ
新しい仕組みを構築するにあたり、ECAD DCXは設計の回転率を上げることだけに集中し、製造情報の追記や修正作業はWIRE CAM DXで行う事が効率的と判断し、設計所属の当時入社3年目の女性社員、入社1年目の女性社員の2名をアサインし、独立したWIRE CAM DX専門チームを作って準備を始めました。そして、導入から1カ月で実稼働という信じられないスピードで新たな仕組みの現場実装に成功しました。
設計部門が作成した設計データを基に、WIRE CAM DXチームが接続情報や電線情報を追加して配線設計を行い、製造用のデータを作成・出力します。そして、製造部門は「現場合わせ」の作業を削減し、現場に設置しているパソコンでWIRE CAM DXのデータを確認し、システム連携された加工機による電線加工と配線を行うことで、ミスなくスムーズに作業ができる環境を構築しました。
当初、ベテランからは「パソコンの指示通りに作業したくない」「俺たちはロボットじゃない」「好きなように配線できないのは嫌だ」といった反発も出ました。社長をはじめ経営陣が若い人の意見を尊重するスタンスで、且つ、WIRE CAM DX担当の2人が粘り強くコミュニケーションをとり頑張ってくれ、ベテランもそれを理解し協力してくれました。そうした皆の協力があり、そのノウハウと技術をWIRE CAM DXに取り込むことができ、今まで以上に効率的な配線作業ができるようになりました。また、ベテランでなくてもWIRE CAM DXを使用して現地での改造作業もできるようになってきています。
私たちの取り組みを他社に話した際に、「うちは一品モノだから真似できない」と言われることも多いですが、WIRE CAM DXは一品モノの製造を誰でもできるようにすることに意味があると思っています。リピート品については手順書や作業表など様々な改善方法があります。WIRE CAM DXの最大のメリットは、これまで私たちが手順書にできなかったことをシステム側でガイドしてくれることです。
1年を経た今では受注案件の9割以上をWIRE CAM DXで作成したデータを使って製造しています。
WIRE CAM DX推進の立役者となった若手女性社員のがんばり
はじめにWIRE CAM DX担当に誘われた時は、実際に何をするかイメージが湧かない状態でしたが、新しいことをやるのは面白そうですし、今の自分でできるのであれば喜んでやりたいと思い引き受けました。
WIRE CAM DXは入力作業がExcelと似ていて直感的に操作でき、スムーズに慣れることができました。はじめた当初は、ほとんど制御盤のことも製造部門のことも理解していなかったので、とにかく分からないことがあれば現場に足を運び、いろいろな人に聞いてまわりました。それまで接点がなかった人間が突然やってきて質問攻めをするので現場の方々は迷惑だったと思いますが、協力的に接してくれてとても嬉しく、助かりました。
また自分で小さな盤を作って配線作業をしてみたり、ECADソリューションズのサポートセンターに毎日のように電話をして質問したり、展示会に行って直接話を聞き、少しずつ使い方を学んでいきました。
作業者10人の新規採用と電線使用量30%削減
WIRE CAM DXの導入効果は、予想以上の成果が出ています。やはり一番大きかったのは「人」の課題を解決できたことです。まず、製造部門の組立・配線作業者を10人増やすことができました。作業を標準化して分かりやすくしたことで未経験者も採用でき、入社当日から作業ができるようになりました。また、近隣には家庭や子育ての都合で限られた時間しか働けないという女性も多く、そうした人も安心して働ける環境にすることができました。現在、カトリ製造部の女性比率は25%まで高まっています。
また、以前と比べ電線の無駄を省き使用量が30%削減できたほか、調達部門からは「配線前に電線使用量が把握できるので発注のタイミングもわかりやすくなり、在庫管理が楽になった」と喜ばれています。
業務効率化については、もともと現在の100%が120%になるとは思っておらず、ベテランの100%は変わっていません。しかし若手や初心者など作業効率は大きく底上げできたと評価しています。設計と製造、調達や検査、管理部門に至るまでの連携と、ベテランから若手まで各人の強みが活きる現場を実現しています。
楽しく働ける会社づくりへ努力を継続
今後は設備の追加導入をすることで、更に生産能力を拡大し、より人材採用が進んでいくと思います。WIRE CAM DXチームが独立した第3部署として設計と製造の間に入り、設計上のミスはWIRE CAM DX担当が潰せているので、製造から設計に問い合わせることが大幅に減っていて、良い橋渡しになっています。これをさらに進め、残業ゼロで休日出勤もない楽しく仕事ができる会社にしていきたいと思っています。
また、医療機器や制御装置、プリント基板を設計・製造している八千代製造部への横展開も考えています。産業機械の制御盤とは異なる配線設計となりますが、新しいチャレンジです。
WIRE CAM DXに取り組んだこの1年は大きな変革を成し遂げました。これからも変革と継承するべき事を区別し、次世代にどう渡すかを考えながら積み重ねていきたいと思います。
『涙の数より1つでも多くの笑顔を』そうした会社にするには努力が必要です。これまでの約70年のアサヒの歴史を構築された、先輩方に恩返しができる会社づくりをします。アサヒ社員の力があれば可能であると信じています。